I型人材やー型人材、T型人材などの言葉を聞いたことはありますか?
これらは縦方向を専門性、横方向を幅広さとして、「I」「ー」「T」といった文字を用いて、その人の知識や技術の分布を表した言葉です。
例えば特定の専門領域に深く精通したスペシャリストはI型人材と表されます。
一方、広範囲に渡り幅広い知識を持ったジェネラリストはー型人材と表されます。
そして、その両方の側面を兼ね備えた人を表す言葉、それがT型人材です。
この記事では、スペシャリストとジェネラリストの両方の側面を持つT型人材に着目し、自身の現状とT型人材になるために必要なことについて考えます。
T型人材を目指す理由
T型人材とは
T型人材とは、ビジネスにおいて、以下の2つの要素を兼ね備えた人を表す言葉です。
- 特定領域の専門性
- 幅広い分野の知識
それぞれの要素について解説します。
特定領域の専門性
特定領域の専門性を持った人とは、一言で言えばスペシャリストの側面を持った人を指します。
当該領域において右に出る人はいない高度なスキルを活かし、成果を生み出していきます。
その希少性を活かして、転職や独立も成功させやすいと言えます。
幅広い分野の知識
幅広い分野の知識を持った人とは、一言で言えばジェネラリストの側面を持った人を指します。
その幅広い知識を活かして、物事を多方面から捉え総合的な判断を下すことができます。
マネジメント能力に長けており、管理職への出世も期待できます。
I型人材・ー型人材の弱点
I型人材とー型人材にはそれぞれの強みがありました。
しかし、専門性と幅広さの一方に振り切っていることから、残念ながら弱点も存在します。
I型人材の弱点
そもそもI型人材として生きていくのは簡単ではありません。
他のスペシャリストと比較されやすく、相対的に劣っていると、自身のポジションを失ってしまうかもしれません。
また1つの技術や知識を極めても、代替技術の登場など、時代の変化とともにそのスキルの価値が減少する可能性があります。
努力量と評価が見合わないなんて悲しいですよね。
ー型人材の弱点
ー型人材の最大の弱点は、その人のスキルや成果が分かりづらいことにあります。
共に仕事を行った人による主観的な評価になりやすく、 I型人材と比較すると、これといったスキルをアピールできないことから転職が難しいと言えます。
終身雇用時代の日本であれば、上位職に就きやすいジェネラリストすなわちー型人材は優位な立場にありましたが、今・そしてこれからはそうではありません。
特にIT業界ではこの傾向は強く、ー型人材として生きていくのは困難です。
いいとこ取りしたT型人材
そこでT型人材の登場です。
縦方向にも横方向にも線を伸ばすことで、各々の弱点を補います。
I型人材と比較するT型人材の強み
まずはI型人材を主体に考えてみましょう。
I型人材には、特定のスキルで1本勝負であるという弱点がありました。
T型人材では、1つの軸は持ちつつ、近隣のスキルの習得も目指します。
これにより、スキルの掛け合わせが希少性を高めるとともに、時代の変化にあわせた主軸の転換も可能となります。
また視野が広がることで、一方向からの思考に固執する恐れを低減できる点もメリットと言えます。
ー型人材と比較するT型人材の強み
次にー型人材を主体に考えてみましょう。
ー型人材には、強みが現れにくく評価されづらいという弱点がありました。
T型人材では、幅広く知識を有する一方各々は浅くぼんやりとしていたところに、1つの主軸を構築します。
これにより、幅広い視野はそのままに、より深い考察や議論を行えるようになります。
また専門性が高まることで、自身の市場価値が明確になり転職において有利に働く点もメリットと言えます。
現代にマッチしたT型人材
まとめると、T型人材では特定の専門知識とその周辺の幅広い知識を掛け合わせることで希少性と需要を高めます。
普段はI型人材として専門的なスキルを発揮しつつも、幅広い視野で時代の変化を捉え、その変化に適応していくことも得意です。
現代の世の中にとてもマッチしていると言えます。
また近年では、幅広い知識を活かした専門的な議論が要求される仕事も増えてきています。
例えばデータサイエンティスト。
機械学習・統計学などの専門領域の知識に加え、分析対象とするデータごとに、その分野に関する知識も欠かせません。
ゆえに、このような職業においては、I型人材でもー型人材でも不十分です。
顧客の期待に応えるためには、T型人材が求められます。
このような職業の増加や求められる知識の多様化を考えると、T型人材を目指すことはこれからの時代を生きる上で有効であると言えます。
T型人材になるために
自身の現状
現在、大学学部4年でAI分野の研究を行っています。
従ってAI分野を専門領域、その他のIT分野全般を包括領域として到達点を設定し、自身の現状を考えてみます。
知識の深さ
縦方向、すなわちAI分野の知識としては、日本ディープラーニング協会が実施しているG検定およびE資格に合格しており、基礎的な知識に問題はないと考えています。
G検定
ディープラーニングの基礎知識を有し、適切な活用方針を決定して、事業活用する能力や知識を有しているかを検定する。
E資格
ディープラーニングの理論を理解し、適切な手法を選択して実装する能力や知識を有しているかを認定する。
しかし、資格で測られているのはあくまで知識であり(※)、実務経験はありません。
(※)E資格の取得には実装力も問われるため、全く実装能力がないわけではありませんが。
研究室に入り研究を開始したことで少しずつコーディングの機会も増えてきましたが、まだまだスタートラインです。
知識の幅広さ
横方向、すなわちIT分野全般の知識としては、応用情報技術者試験に合格しているという観点からは、満遍なく一定量以上の知識はあると言えます。
しかしその全てを網羅しているわけではなく、例えばハードウェア領域は苦手な部類に入ります。
IoT機器の浸透が進む今、センサやアクチュエータが絡んだ(これらを入出力とする)モデルを構築する機会も有り得ます。
よってハードウェアに近い領域に関しても、最低限の知識は身に付けておく必要があると考えています。
また、IT以外の分野に関して、研究では医用画像を扱っています。
ゆえに、処理対象としている医用画像に対する知識を深めていくことも欠かせません。
足りていないもの
以上の自身の現状を踏まえ、現状足りていないと考えられるものを3点にまとめます。
- 人工知能技術の活用能力
- 複数人での開発経験
- ハードの知識
それぞれ掘り下げます。
人工知能技術の活用能力
縦方向の専門性に関する能力です。
具体的には以下のような能力が足りていないと感じています。
- 様々な手法やモデル構造とその特徴を知り、タスクにあわせて使い分ける能力
- 各々のハイパーパラメータの役割と影響を理解し、適切にチューニングする能力
- 学習結果の可視化と、その結果を分析・評価する能力
複数人での開発経験
大学の講義や資格の取得を通じて知識は身に付いているように感じますが、一方でその知識ばかりが肥大化しているようにも感じています。
そこで実際の開発、特に実務に近い複数人での開発を経験することが、現状欠けている能力の補完に有効ではないかと考えています。
例えば複数人での開発には、以下のようなスキルを実際に体感しながら効率的に学べるという利点があります。
- Git・GitHubの使い方
- プロジェクトの管理・進行方法
ハードの知識
具体的には、同一LAN内でのデバイス間通信や電気回路に関する知識、もう少し広く捉えるとラズパイ関連の知識などが挙げられます。
これらに関しては、大学の講義で学んだレベルの最低限の知識しか持ち合わせていません。
しかもこの領域には普段触れていないため、忘れかけていることも多いはずです。
今後やるべきこと
実践的な経験を多く積むこと
幅広い知識を得るためには資格取得を通じた学習も有効です。
しかし、それだけで全てをまかなえるわけではありません。
資格取得を目的とした勉強には、例えば以下のような弱点が挙げられます。
- 文字で仕組みや技術を学ぶだけでは、実際のイメージはしづらい
- 試験範囲外のニッチな技術やモダンな技術には触れることがない
そこで、ある程度基礎を固めた後は、アウトプットを中心に実践的な経験を多く積むことも大切だと考えます。
- 実際に使用することで、その技術に対する理解が深まる
- しかも印象に残りやすい
- 技術選定の際に比較・検討を行うが、その過程でも多くの学びが得られる
実践を通した学習には、このような利点があります。
そして、自身の現状から今後の成長を考えると、この「実践的な経験を積む」ことが最適だと判断しました。
具体的な実現方法としては、以下のようなものが考えられます。
- ハッカソンへの参加
- OSS活動
- Kaggleへの挑戦
T型人材を活かすために
ここからは、T型人材になった後のことについて考えていきます。
T型人材になっただけではダメ
T型人材になれたことに満足していても仕方がありません。
というのも、T型人材に満足しているのは目的と手段を取り違えたような状態です。
T型人材を目指すのはなぜでしょうか?
- 他人と差別化し希少な存在となる、ひいては集団の中で優位に立つ
- データサイエンティストのようなT型人材の特徴を活かした職業に就く
このような、T型人材になった先にある目的に向け、努力を継続する必要があります。
Tの字をさらに大きくしていく
T型人材の弱点に、知識の深さ・幅広さの両面から見てどっちつかずに捉えられてしまう恐れがあります。
I型人材の劣化版・ー型人材の劣化版では意味がありません。
もちろん1方向に限定し極めたI型人材やー型人材にその方向で勝てないのは当たり前です。
しかし、だからと言って劣っていても良いわけではありません。
少なくとも、I型人材・ー型人材・T型人材の3人がいた時に、I型人材とー型人材の2人ではなくT型人材の自分1人を選んでもらえることが重要です。
もっと深いスペシャリストを目指して。
もっと幅広いジェネラリストを目指して。
両方向に線を伸ばし、Tの字の拡大を目指す必要があります。
Π型人材への進化
○型人材に関して少し調べてみると、この記事内で紹介した3種類の他に、Π型人材や△型人材という言葉も存在することが分かります。
どちらもT型人材からさらに発展したものです。
ここではΠ型人材に着目します。
Πの字をよく見てみると、Tの字では1つだった縦棒が2つに増えています。
すなわちΠ型人材は2つの専門領域を持つ人材を指します。
簡単に言えば二刀流ですね。
AI分野における2本目の柱としては、データベース領域やビッグデータ領域が親和性が高く、掛け合わせると効果が高いと思われます。
Π型人材になることはT型人材になる以上に難しいですが、それだけ希少性も高まります。
余談ですが、自分の学科には工学と医学の2つの博士を取得された教授の方がいらっしゃいました。
複数の博士号を取得している方はそうそういらっしゃるものではありません。
その功績を見習い、自身も日々努力が欠かせないと感じています。
まとめ
T型人材は、特定の専門領域の深い知識と、その周辺の幅広い知識の両方を兼ね備えた人を表した言葉です。
I型人材とー型人材の双方の弱点を補いつつ、希少性と需要を高めることができ、現代にマッチした人材であると言えます。
大学の講義や資格の取得を通じて基礎知識を習得した今、T型人材を目指す上で自身に必要なものは、実践的な経験を積むことであると考えています。
また、T型人材になれてもそこで満足するのではなく、継続的な努力を続け、さらに自身を高めていくことが大切です。